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過去最多を更新した精神障害による労災請求件数と労災認定基準

2019.07.25

 

先日、厚生労働省より「平成30年度「過労死等の労災補償状況」」が公表されました。その内容には、平成30年度の精神障害による労災請求件数が盛り込まれており、メンタルヘルスが労務管理における大きな課題となっている現状で、注目すべきものとなっています。そこで今回の特集では、この集計結果をご紹介すると共に、その前提として理解しておきたい精神障害の労災認定基準についてとり上げましょう。

そもそも時間外労働の上限規制は、働き方改革の一環として改正された労働基準法に規定されました。それまでは厚生労働大臣の告示によって、時間外労働の限度に関する基準が定められており、36協定に特別条項を設けることで、実質無制限に時間外労働を行わせることができる仕組みとなっていました。今回の法改正によって、罰則付きの時間外労働の上限が規定され、特別条項があったとしても上回ることのできない労働時間の上限が設けられています。具体的な上限は以下のとおりです。なお、この上限規制の適用が猶予や除外される事業・業務があります。

精神障害の労災補償状況

平成30年度における精神障害の労災請求件数は1,820件となり、前年の1,732件から88件増加し、過去最多となりました(下図参照)。一方、支給決定件数は465件で、認定率は31.8%と申請の3件に1件の割合で労災として認定されていることになります。

この集計では、支給決定事案において精神障害が発症した理由と考えられる具体的な出来事が分類されており、上位の項目は次のとおりとなっています(「特別な出来事」を除く)。

  • 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった・・・69件
  • (ひどい)嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた・・・69件
  • 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした・・・56件
  • 1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った・・・45件
  • (重度の)病気やケガをした・・・36件

精神障害の労災認定基準

 支給決定は事案ごとに個別に行われますが、精神障害の労災認定については次の3つの要件により判断されることになっています。

  • 対象質病を発病していること
  • 対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

それぞれ具体的な判断基準が設けられていますが、企業は労務管理上、特に2.について留意が必要となります。実際に心理的負荷が認められるかの確認は、発病前おおむね6ヶ月の間に起きた出来事が「業務による心理的負荷評価表」により「強」と評価されるかにより行われます。具体的な流れは以下になりますが、出来事が複数ある場合には全体の評価が行われ、その心理的負荷の強さが判断されます。

  • 「特別な出来事」に該当する業務があったかを判断し、あった場合にはそれのみで心理的負荷の「強」とする。
  • 「特別な出来事(※)」に該当する出来事がないときは、業務による出来事を36個の「具体的出来事」に当てはめ、あるいは近いかが判断された上で、さらに示されている具体例の内容に合致するときには、心理的負荷の「強」・「中」・「弱」の評価がされる。合致しないときには、「具体的出来事」ごとに示されている「心理的負荷の総合評価の視点」および「総合評価における共通事項」に基づき、具体例も参考としつつ個々の事案ごとに評価される。
    ※発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような時間外労働を行ったもの等

 例えば、上記で1位となった項目の心理的負荷の評価をみてみると、以下のようになっています。

・「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

・「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」

このような流れで労災認定の具体的な判断が行われ、心理的負荷の総合評価が「強」とされたものは、業務よる強い心理的負荷が認められたとして、業務による強い心理的負荷が認められと判断されます。

人材不足等の影響から、退職者の発生により急激に仕事量が増えたり、過去に経験したことのない仕事に従事し緊張を強いられる状況になると、従業員に精神的・身体的に過重な負荷がかかることがあります。そのため、上司としては定期的に面談するなどして状況を確認し、問題があれば早めに調整することが求められます。

参考リンク

厚生労働省「平成30年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」
厚生労働省「精神障害の労災認定」

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。